・私の好きなアルバムは、アルバムの良さに加え個人的な体験談も伴う。当時のつらい状況を思い出すため聴かなくなったものもある。リスト作成に至った経緯は、あまり当時のことを思い出せなくなってきたからで、自分が好きなアルバムを列挙すればそれが何だったのか分かる気がした。毎日が通り過ぎていく中でずるずると暗い気分になる私を励ましてくれたのは音楽だと思う。
・というわけでとりあえずのベストっぽいものを挙げてみた。貧弱極まる音楽遍歴なので批評とか高尚なものは全くなく、すべてただの個人的感想になります。それってあなたの感想ですよね?そうです、だたの感想です。ただ感想を述べるだけで叩かれる世の中ってポイズンだけれど、それでも書かなければ何もなかったことと同じになるのでみなさんもじゃんじゃん感想を書いてほしい。なんでも。
・リストは順不同ですが、後半になるにつれ思い入れ度が増す気がします。
・1.Kanye West/My Beautiful Dark Twisted Fantasy(2010)
・2010年代の傑作のひとつであり、大物ラッパーの絶頂期に相応しい5th。現在進行形で物議を醸しているカニエだけれども、私は人格と作品の価値は別物だと考えている。大学の卒論提出〆切を過ぎ留年が確定した日に聴いて文字通り椅子からひっくり返った記憶がある。
・2.My Little Lover/evergreen(1995)
・小林武史プロデュースの1st。コバタケのアレンジは大仰だと時折批判を受けるが、このアルバムについてはボーカルの歌声と完璧に合致しており、彼の最良の仕事のひとつ。就職して1年目の車内でよく聴いた。
・3.Nujabes/Modal Soul(2005)
・北海道に車で4泊5日の旅行に行ったとき、小樽市から国道5号線を通りニセコ町、長万部町を通過して函館まで帰る際の山道でこのアルバムを延々と聴いていた。夜通し運転していたので気がおかしくなりそうだったが無事に戻れたので良かった。
・4.King Crimson/In the Court of the Crimson King(1969)
・プログレッシブロックの金字塔。このジャンルは今でこそ聴かなくなってしまったが、大学生の頃は熱心なリスナーであった。手数の多いドラムトラックと省察的な歌詞に驚いたものだった。公務員試験の勉強をしているときに筋肉少女帯と合わせてよく聴いていた。
・5.Los Campesinos!/Hold On Now, Youngster...(2008)
・男女混合7人組のお祭りバンド1st。存在しない青春を幻視させるような、圧倒的な輝きと儚さがこのアルバムには詰まっている。青春とは失われることが予め合意されている祝祭だと思う。
・6.The Strokes/Is This It(2001)
・2度目の就職活動のため、東京に行く新幹線の中で履歴書を書きながら聴いていたことを覚えている。追い詰められた時に聴くガレージロックは私にどうにもならないことは諦めるのが大事だと教えてくれた。
・女性SSWの弾き語りアルバム。ギターの弾き語りで彼女が真価を発揮するのは当然というか、暗い情念を自身のセルフブランディングも顧みず歌う様には畏敬すら感じる。
・8.相対性理論/ハイファイ新書(2009)
・ボーカルやくしまるえつこの無機質な歌声と、後続の作品には無い演奏陣の質の高さで知名度を上げたバンドの1st。「さわやか会社員」の完璧なギターソロの前では感服する他はない。中学生の頃から今でも聴き続けている。僕のipodに曲を入れてくれた清水くん、ありがとう!
・9.The Beach Boys/Pet Sounds(1966)
・天才ブライアン・ウィルソンの英知が結集した傑作。とりあえずペットサウンズ流すかと聴き始めればアルバムの最後まで聴いてしまう不思議な力を持つ。大学3年の頃によく聴いていた。
・10.Modest Mouse/Good News For People Who Love Bad News(2004)
・Vampire Weekend「Step」の歌詞に登場したためにこのバンドに興味を持ち、渋谷ツタヤでCDを借りた記憶がある。バンド名の元ネタは確かヴァージニア・ウルフの小説。大学を留年し路頭に迷っていたころだったので暇を持て余しており、とにかく何か聴いてないと気が休まらなかった。哀愁漂うサウンドが何とも言えない。
・11.THE BLUE HEARTS/THE BLUE HEARTS(1987)
・大学3年の頃は研究室に所属し色々やっていたが、ブルーハーツが好きな人がいて薦められた。哲学徒たるもの甲本並みの気合で世間に逆張りしていけというつもりだったかもしれない。だが甲本ヒロトは自身をコントロールする術を心得ていた。逆張りに憧れる年頃ではあったが、まずは足元を固めないと話にもならないことが判った。
・12.Death Grips/The Money Store(2012)
・Pichforkから絶賛を受けたHiphopユニットの1st。異様なリリックとエレクトロサウンドが融合された音楽はダンスフロアで流すには殺伐過ぎる感はあるが同時に心地よさも感じられる。チェンソーマンを読んでるときの脳内BGMはこのアルバム。
・13.Phoenix/Wolfgang Amadeus Phoenix(2009)
・仏出身4人組ロックバンドの4th。何といっても「1901」の軽快なサウンドと歌詞には何度も勇気づけられた。アルバム単体では構成に難があるが、それもこの1曲でカバーできるため今回取り上げた。就職してからよく聴いたと思う。確かMVもあるが祝祭感がありとても良い。
・14.Radiohead/Kid A(2000)
・この1枚でロックの歴史を変えた大物バンドの4th。巧みな構成力とサウンドの美しさは他の追随を許さないが、感情としてはフラットな気分で聴けるため試験勉強のお供によく聴いていた。
・15.くるり/TEAM ROCK(2001)
・岸田繁を中心として流動的な編成を行うバンドの3rd。「ばらの花」は邦楽史に残る名曲である。ジンジャーエールを飲みながらよく聴いていた夏を思い出す。
・16.レミオロメン/ether(2005)
・「粉雪」で有名なスリーピースバンドの2nd。アップテンポの曲で突き抜けるこのアルバムは、人をして春夏秋冬全季節に呼応する1枚と言わしめた。快晴のビーナスラインを爆走しながら聴きたい。実際は家と職場の往復で聴くだけだったが…
・17.Silvanian Families/Individual Four and Alpha Stars(2012)
・長谷川白紙、パソコン音楽クラブを輩出したネットレーベルMaltine Recordsからリリース。豊富な声ネタに加え混沌としたボーカルチョップの中で刻まれる音楽は、一種の同人音楽の域を凌駕している。無理やりにでも気分を上げたいときに聴く。
・18.The National/Boxer(2007)
・Wilcoと並ぶアメリカの良心を担うロックバンドの4th。アルバムの統一度もさることながら、リードトラック「Fake Empire」の歌詞がとてつもなく良い。微睡みの中の偽りの王国。すべてを一度に分かろうとしていた時期もあったが、年を重ねることは悪いことばかりでもないだろう。
・19.Big Thief/Dragon New Warm Mountain I Believe in You(2022)
・USインディーロックの最先端を突っ走っているバンドの新作。2枚組というボリュームながらも、アルバム全体の流れを阻害する要素が何一つなく素晴らしい。まだまだ聴き込んでないけれども途轍もない傑作であることは確かだと思う。このような作品が世に出て来るというのは本当に祝福されるべきことなんだろうな。
・20.Rostam/Half-light(2017)
・Vampire Weekendから離脱した後のソロ1st。前所属バンドの核となっていたメロディメイカーとしての才能を遺憾なく発揮している。I belive I will see you againと歌い少しの後悔は滲ませつつも前向きな曲も多く、聴くと晴れやかな気持ちになる。
・21.ROTH BART BARON/けものたちの名前(2019)
・このアルバムを聴くと冬の寒さを思い出す。淡々としたピアノに乗せられて描写される情景は、神様のいない12月のような覚束なさと新年を迎える前のあの浮ついた不安とも焦燥ともわからない感覚に的確に当てはまる。
・22.Keith Jarrett/The Melody At Night, With You(1999)
・最初の曲の1音を聴くだけで、夜のためにあるアルバムだと確信できる静謐さがある。仕事が嫌で眠れない日曜の夜に聴く。眠れない夜には手放せない。
・23.The Beatles/Magical Mystery Tour(1967)
・大学5年生の頃、青春18きっぷで松本から長崎まで旅行に行った。佐世保から長崎までの鈍行でストロベリーフィールズフォーエバーを聴きながら外の景色を眺めていた。朴訥と広がる田園風景のなか、ポールが見ていた故郷の風景はどのようなものなのだろうかと思いを馳せた。きっと快晴ではないだろうが、苺畑というものは見たことがないため想像することしかできない。だがそれを見ている者の感情は理解できる気がした。永遠に続くものなどありはしないのだ。きっとそういう気持ちだったと思う。
・24.Bob Dylan/Highway 61 Revisited(1965)
・ノーベル文学賞受賞者の6th。若干24歳で「ライクアローリングストーン」を書き上げた、掠れた声の歌手は現在も活動を続けている。村上春樹の小説(世界の終りと…)では終盤にディランの曲が効果的に使われており、それは私の好きなシーンでもある。
・25.羊文学/トンネルを抜けたら(2017)
・塩塚モエカ率いるスリーピースバンドの1stEP。演奏時間は短いながらも、自意識と向き合った真摯な歌詞と粗削りながらもぐいぐいと引き込まれるサウンドに魅了される。このバンドに関しては「ざわめき」以降のアルバムはすっかり牙が抜け落ちてしまったなあという感想を持っていて残念な気持ちがある。休日の運転中によく聴いた。
・26.宇多田ヒカル/Fantome(2016)
・作品を発表する毎に音楽性が洗練されていく女性SSWの6th。エヴァQのテーマソング「桜流し」を筆頭に、KOHHを客演に迎えた鬼気迫る「忘却」や小袋成彬とコラボした「ともだち」など顔ぶれが豪華。卒論〆切を目前に聴きまくって現実逃避していた記憶が蘇ってくる。
・27.昆虫キッズ/My Final Fantasy(2009)
・変態フロントマンこと高橋翔率いるロックバンドの1st。彼ら/彼女らのライブ映像を観ていると、ここではないどこかへ行きたいという感情が沸き上がってくる。いつか誰とも会わない日々を夢見るとき、我々はサリンジャーのように沈黙するしか手段はないのだろうか。死ぬほど落ち込んでるときに聴くと良いカンフル剤になる。
・28.Sons Of Kemet/Your Queen Is A Reptile(2018)
・英国のジャズグループによる3rdアルバム。ジャズのことは何一つ知らないが初めて聴いたときには文字通り椅子からひっくり返った。タイトルから調べるとどうやらReptillian conspiracy theory(歴代の英国女王は王冠を被った爬虫類だという陰謀論の一種)なる怪しさ満載の思想から着想を得ているらしいが…。しかしながら、その暴力的なまでのグルーヴには感嘆するしかない。
・29.King Krule/The OOZ(2017)
・英国出身SSWの終始ダウナーを貫く3rd。ダウナーとは言ったものの、ダブステップやジャズの要素を取り込んだ楽曲は情感豊かであり、ある意味では希望を感じる。ジャケットの飛行機雲がとてつもなく良い。私は飛行機雲を見るだけでテンションが上がってしまう。
・30.上海アリス幻樂団/大空魔術~Magical Astronomy~(2006)
・東方Projectを知るきっかけは、研究室同期の女の子が東方好きでチルノの絵を描いてくれたからだったと思う。その女の子は卒業したが私は留年し、暇を持て余していたところ原作に触れてやり込んだ。秘封倶楽部についてはキャラ名なら知っていたが、ZUN氏の音楽CDに付属しているテキストが元ネタとのことで早速聴いた。短調からなる、何かに追われているような焦燥感溢れる音楽はゲーム上のみならず、当時の引き延ばされた生活を一瞬でも忘れさせてくれた。もうあの頃の生活には戻りたくない。
・31.チャットモンチー/告白(2009)
・高校生の頃、部活帰りの電車の中や大会に行くバスの中でよく聴いていた。あの頃はまだ若く、いつかは自分もいっぱしの何者かになれるような気がしていたが、いまも何者かになれているような気はしていない。
・32.Arcade Fire/Funeral(2004)
・カナダ出身多人数バンドの1st。2000年代のインディーシーンを席巻した1枚。ラストを飾る曲(in the backsheet)は大人になるという重荷を背負う覚悟を感じる歌詞だが、後部座席から運転席へ移っても自動的に大人になるわけではない。強制はあくまでも機会にすぎず、自発的な動機が必要だと今回聴いてみて思った。
・33.筋肉少女帯/キラキラと輝くもの(1996)
・サブカルの代弁者大槻ケンヂ率いるバンドの1枚。小説家でもある彼の物語性の強い歌詞はさらっと聴き流せるものではない。私も公務員試験のために図書館に入り浸っていたとき、筋少の曲がかかると手を止めていた気がする。
・34.Bruce Springsteen/Born To Run(1975)
・USを代表するSSWの3rd。ほとんど聴き取れない唄と熱いブルースで突き抜けるこのアルバムは、ストリートチルドレンでなくともその脱出願望を感じるに余りある。洋楽を聴き始めたのは大学3年に入ってからだと思うが、各年代の名盤からツタヤでCDを借りまくっていた。未来があっていい時代だった。
・35.JPEGMAFIA/All My Heroes Are Cornballs(2019)
・コラージュを散りばめたトラックメイクと元軍人のラッパーによる混沌としたリリックが特徴の3rdアルバム。継ぎ接ぎの音楽の中で悲痛な叫びが反響され、呪術的な妖しさを醸し出している。
・36.kurayamisaka/kimi wo omotte iru(2022)
・ネット上に突如現れた東京出身オルタナロックバンドの1st mini。「高校を卒業し離れ離れになる親友への追憶」というコンセプトのもと、潔いギターロックで突き進む20分。リズと青い鳥。
・37.ゆらゆら帝国/空洞です(2007)
・リリース後にバンド自体が解散する、幕引きに相応しいラストアルバム。大学生の頃、哲学科の先輩にゆらゆら帝国が好きな女の子がいて(なんでこんな学科にいるの…と思うくらい素敵な人だった)そこからこのバンドの作品を聴き始めたと思う。その人のことはかなり好きで、研究室でゆるゆり一期OPの話をしたりラブライブ!で推しは誰かの話をしたり飲み会で一緒に後輩をいじりながらテーブルの下で足をつつきあったりしていた。帰り道で彼女は僕のことを女装したらきっと似合うと思うから女装してみるのに付き合ってもいいよみたいなことを言って笑ったが、僕は冗談だと思ってまたいつかと曖昧な返事をした。市役所職員を目指していて、偶然公務員試験の勉強を一緒になってやったことを覚えている。僕は大学に行かなくなり結局は地元に戻ったが、伝え聞くところによると彼女は大学の指導教授と結婚し幸せな生活を送っているらしい。
・38.Neutral Milk Hotel/In the Aerophane over the Sea(1998)
・Pitchforkの最重要アルバムに名を連ねるカルト的な人気を持つUSインディの傑作。アンネの日記から着想を得た名曲「Holland,1945」を筆頭に、60年代のサイケデリック感を出しつつなお現代でも通用するエモーショナルなサウンドを奏でている。
・39.麓健一/コロニー(2011)
・孤高のサウンドを奏でる男性SSWの2nd。前作の教会から鳴らされているような籠った音響は影を潜め、宅録的なミニマルさと厭世感が強く表出されている。
・40.Pixies/Doolittle(1989)
・ニルヴァーナやナンバーガールに多大な影響を与えたことで知られる、時代を先取りしたバンドの2nd。躁鬱的な歌唱と唯一無二のベースによるサウンドの躍動感は今聴いてもテンションがブチ上がること間違いなし。試験勉強中によく聴いた。
・41.INU/メシ喰うな(1981)
・町田康のパンクバンド時代唯一のアルバム。ギターサウンドの妙が光る。私は時々食事を忘れることがあるが、たまに表題曲を思い出しては一人でニヤニヤしていることがある。どういうこと?
・42.ナツノムジナ/淼のすみか(2017)
・寡作な沖縄出身オルタナロックバンドの1st。叙事的な難解極まる歌詞に合わせ誠実にギターを掻き鳴らすこのアルバムは、構成力の巧みさに加え様々な趣向が凝らされており2010年代邦楽ロックの中でも最良のものだと思う。変奏されるリフの数々が聴くたびに新鮮な驚きを与えてくれる。
・43.<物語>シリーズ/歌物語-<物語シリーズ主題歌集>-(2016)
・西尾維新についてはデビュー作クビキリサイクルからのファンであるが、アニメは大学1年になってからリアルタイムで物語セカンドシーズンをニコ動で観ていた。乾燥した暮らしにおける一つのオアシスとなってくれた。羽川翼さんが好きです。
・44.Chance The Rapper/Acid Rap(2013)
・大物ラッパーのキーボードサウンドが特徴的な2nd Mixtape。就職も決まらず実家で鬱々と過ごしていた時期によく聴いていた。あの頃はとにかく何もしたくないという思いが強く、身動きがとれない状態が続いておりそこから自由になる術を音楽に求めていたように思う。
・45.明日の叙景/アイランド(2022)
・2014年結成のポストブラックメタルバンド(と書いてもどういうジャンルなのかよく知らない)の2nd。ヒロイン/世界の二項関係で葛藤する夏を想起させるゼロ年代セカイ系のテイストを取り入れながら、メタルの文脈でエモいメロディを奏でるため訳が分からないことになっている。イリヤの空、UFOの夏。唸るような歌唱の中、空に飛び立ってゆくイリヤを見届ける。終わる、のではない。終わらせるのだ。この夏を終わらせる怪作。
・46.James Blake/James Blake(2011)
・ダブステップを革新したUK出身SSWの1st。内省的ではあるが、聴き込むほどに魅力を感じていく。車中で聴くのはおすすめしない。
・47.OTAKU-ELITE Recordings/Opium and Purple haze(2014)
・東方同人サークルIOSYSのメンバー、D.Watt(七条レタス)作曲のEP。表題曲は地霊殿3面ボスさとり曲のアレンジであり、一貫して硬派なEDMだが各パートの洗練されたトラックメイクには息を吞むしかない。サウンドボルテックスという音楽ゲームが好きで、譜面も曲も同ゲームの中では一番好きである。松戸譜面ばっかりやってるなこいつ。
・48.Talking Heads/Remain In Light(1980)
・痙攣的なフロントマン率いるバンドの評価を決定づけた4th。何かの映画で(確かアンダーザシルバーレイクだったと思う)トーキングヘッズを聴く奴はホモのカスだと虐められるシーンがあったような気がするが、労働者階級の出目でないアート気質の彼らはパンクを理解していないと反発にあうのはわかる気もする。
・49.NOT WONK/Down The Valley(2019)
・苫小牧出身ロックバンドの3rd。直球なようでいて1曲目から捻りのあるアレンジをしており、聴き込まないと一筋縄ではいかない。現代邦楽ロックの数少ない実力あるバンドとして今後も応援していきたいと思う。
・50.柴田聡子/スロー・イン(2020)
・デビュー時の内省的な弾き語りから、作品を発表する度に独特の音楽世界を醸成していく女性SSWのEP。5th『がんばれ!メロディー』では陽的な曲が多かったが、このEPでは陰の気配を隠しきれていない気もする。ラストの「どうして」は不穏な歌詞に合わせてコーラスを効果的に用いた、彼女の代表曲になりうる美しい一曲。コーラスを取り入れる、というのは今年の新作『ぼちぼち銀河』でさらに洗練されていく。彼女の魅力としては、歌詞の譜割りが予測できないほど独特なのに加え、全盛期の小沢健二を彷彿とさせる情景描写にあると思う。日常を唄うSSWはいくらでもいるが、具体的描写を積み重ねて普遍的な人間の感情をシームレスに表現する手法は狙ってすぐできるようなものではない。個人的には現在もっとも注目している歌手のひとり。
・以上です。後編はまた来週。